ED(勃起障害/勃起不全)

ED(勃起障害/勃起不全)とは、性的刺激を受けた時に十分な生殖器の勃起が出来ていない状態を指します。
ED(勃起障害/勃起不全)治療には、身体全体の調整が重要です。

鍼灸治療は、副作用のないED(勃起障害/勃起不全)治療の選択肢として注目されています。
ED(勃起障害/勃起不全)治療の基本となる4 つの柱や、その治療方法について、わかりやすく解説します。

1 ED(勃起障害/勃起不全)の定義
(ICSM:International Consultation for Sexual Medicine)

日本泌尿器科学会が出す、ED(勃起障害/勃起不全)の最新の診療ガイドラインによると、ED(勃起障害/勃起不全)は、満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか、または維持できない状態と定義されています。
ED(勃起障害/勃起不全)は、一時的な状態である場合もありますが、継続的または再発することもあります。

2 ED(勃起障害/勃起不全)の主な症状

  • 性欲がわかず勃起に至らない
  • 性欲や興奮はあっても、なかなか勃起しない
  • 勃起はするが硬度が足りず挿入できない
  • 挿入はできるが射精前に萎えて抜けて(中折れ)してしまう
  • 早朝勃起をしなくなる、または早朝勃起する頻度が減っている
  • 自慰行為では問題なく勃起できるが、パートナーとの性行為では萎えてしまう
  • 性行為の経験回数が少なく、緊張して勃起しない

3 勃起硬度スコア (EHS:Erection Hardness Score)

米国版を基に日本語版の「勃起硬度スコア」が開発されました。

グレード 0~グレード 2 に該当すればED(勃起障害/勃起不全)の可能性が非常に高く、グレード 3 においても満足な性行為が行えていなければED(勃起障害/勃起不全)の疑いがあります。

グレード 陰茎の勃起状態 硬さのイメージ
0 陰茎は大きくならない ×
1 陰茎は大きくなるが、固くはない こんにゃく
2 陰茎は固いが、挿入に十分なほどではない みかん
3 陰茎は挿入には十分固いが、完全には固くはない グレープフルーツ
4 陰茎は完全に固く、硬直している りんご

4 日本人男性のED(勃起障害/勃起不全)の実態
(一般社団法人日本性機能学会2023年全国調査)

一般社団法人日本性機能学会において25年ぶりに日本人男性(20歳以上)を対象にした性機能の実態に関する全国調査が実施されました。
その結果、日本人男性の約1,400万人(約3人に1人)がED (勃起障害/勃起不全)症状を有していることが分かりました。1998年の前回調査(1,130万人)の調査と比較するとED(勃起障害/勃起不全)の有病者数は123.9%、約270万人増加しています。また、勃起硬度スコア(EHS) 2以下をED(勃起障害/勃起不全)に該当すると定義して年齢との関係を示唆するデータでは、30代、40代よりも、20代の有病率が高いことが示され、20~24歳の有病率は 26.6%で 50~54 歳(27.8%)とほぼ同等の結果となっています。

勃起硬度スコア(EHS) での有病率

5 勃起に至るまでの5つのステップ

第1のステップ

副交感神経が優位になる

野生の生物において性行為は無防備な行為であるため、周囲が安全でリラックスしている状態でないと行うことは出来ません。つまり、人間においても、本能的にリラックスしていないと性的興奮は起きにくいのです。つまり、勃起はリラックスした副交感神経が優位な状態でなければ起きません。そのため、まずはリラックスしている状態を作り出すことが重要です。

第2のステップ

性的興奮を感じる・刺激を受ける

性的興奮や刺激は、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚の五感を通じて引き起こされます。五感を通じて得た性的興奮や刺激の情報を脳に送ります。

第3のステップ

脳から勃起命令が出る

脳の中枢神経に性的興奮や刺激の情報が送られ、脳や脊髄を通して勃起神経が反応します。勃起神経は勃起に至る一連の働きを身体に命じます。最終的には勃起神経から副交感神経である骨盤神経を通って陰茎に命令が伝達されます。

第4のステップ

陰茎の血管が拡張する

勃起神経から陰茎に命令が伝達されると、陰茎の血管で NO(一酸化窒素)という物質が増加し放出されます。NO(一酸化窒素)には血管を拡げ、血流を増やす働きがあります。この働きによって陰茎の平滑筋という筋肉が弛緩し、血管が拡がって血流が増えます。

第5のステップ

勃起の完成

陰茎は海綿体というスポンジ状の器官でできており、海綿体に血液が溜まると膨らみ硬くなります。

そして、海綿体を覆っている白膜という硬い膜も拡がります。血液の出口である陰茎内の静脈が陰茎海綿体と白膜の間に圧縮され、血液が陰茎外へ出ていかなくなります。血液が大量に溜まり膨張すると、勃起が完成します。

エストロゲンとプロゲステロンの女性ホルモン分泌量

6 ED(勃起障害/勃起不全)の4つのタイプ

ED(勃起障害/勃起不全)にはさまざまな要因がありますが、医学的に大きく分けると4つのタイプに分類されます。

【1】器質性ED(勃起障害/勃起不全)

身体的・生理的要因によって起きるED(勃起障害/勃起不全)です。特に疾患がなくても、加齢と共に血管の弾力性が徐々に低下して、血管が硬化し、ED の症状を自覚してくる方もいます。血管が硬化すると血管が十分に拡がらず、血の巡りが悪くなり、陰茎への血流が不足します。膣挿入や勃起の維持が困難だったり、夜間や早朝の勃起が弱い、または確認できない場合が多いです。器質性ED(勃起障害/勃起不全)は、パートナーや状況の影響を受けないのが特徴です。

器質性ED(勃起障害/勃起不全)には、以下のようなものがあります。

  1. 血管の動脈硬化
    血管が十分に拡がらず、血流が悪くなることにより、陰茎に血液が行き届かなくなってしまう
  2. 神経障害・手術や外傷
    脳血管障害や脊髄損傷、手術や外傷などにより神経に障害が発生することで、脳で性的興奮を感じても陰茎まで伝達されず勃起が困難となる
  3. 加齢や生活習慣病
    高コレステロール血症・高脂血症になると血中脂質値が高くなり、血液がドロドロになることで血流が悪化し、勃起が困難となる
  4. 内分泌障害
    ホルモン不足による性欲低下、性機能の障害
  5. 睡眠時無呼吸症候群
    睡眠時無呼吸症候群とは、何らかの原因で、眠っている間に呼吸が止まったり、浅くなったりする疾患。日本泌尿器科学会においても、ED(勃起障害/勃起不全)のリスクを高める一つの要因としてED(勃起障害/勃起不全)診療ガイドラインに記載されている

【2】心因性ED(勃起障害/勃起不全)

心理的、精神的なストレスが原因によって起こるED(勃起障害/勃起不全)です。「自慰行為はできるがパートナーとの性行為はできない」「早朝勃起は確認できる」という場合に当てはまります。

心因性ED(勃起障害/勃起不全)は、パートナーや状況に影響を受けやすいが特徴です。

  1. ストレスや不安
    仕事、学校、家庭、人間関係や過去の性交失敗経験などで性欲や性機能が低下する
  2. 性行為の経験値
    性経験が少ないと、女性や自分の身体へのコンプレックスや生まれやすい
  3. パートナーとの関係性
    パートナーとの関係性により、勃起に必要なステップである性的興奮を感じられない

【3】混合性ED(勃起障害/勃起不全)

さまざまな要因が密接に関わったED(勃起障害/勃起不全)で、一般的にこのタイプが最も多いとされています。

【4】薬剤性ED(勃起障害/勃起不全)

薬の副作用が原因となるED(勃起障害/勃起不全)です。

服用している薬が、性的興奮や性機能に関わる脳の神経伝達や血流量に影響を及ぼすことがあります。
抗うつ薬、抗精神病薬、抗不安薬、高血圧薬は薬剤性ED(勃起障害/勃起不全)の原因となるといわれています。
薬剤性ED(勃起障害/勃起不全)が疑われる場合は、処方している医師にご相談ください。

7 「朝勃ち」は大事!『夜間陰茎勃起現象(NPT)』

早朝勃起(いわゆる朝勃ち)とは、朝、目が覚めた時に陰茎が勃起している現象のことを指します。
早朝勃起は、勃起の一つであり、男性の健康状態を確認する上で重要な指標です。なぜなら、血管や神経などが正常でないと勃起に至れないからです。器質的な異常がない場合、つまり心因性ED(勃起障害/勃起不全)の場合は早朝勃起を確認することができます。ただし、早朝勃起は睡眠状況により変化するので、早朝勃起がないからといって単純に器質性EDはいいきれません。

ここからは、早朝勃起のメカニズムについて解説いたします。
正常な睡眠では、浅い眠りのレム睡眠と深い眠りのノンレム睡眠を約 90~120分周期を1サイクルとして繰り返しています。健康な男性はレム睡眠中に「夜間陰茎勃起現象(NPT)」と呼ばれる勃起現象が起こります。一晩の睡眠で、レム睡眠とノンレム睡眠のサイクルを 4~6 回繰り返しているので、「夜間陰茎勃起現象」も 4~6 回程度起きていると考えられます。
この勃起現象は、副交感神経が優位に傾くことによって引き起こされます。性的な夢による興奮や性的な刺激によって起きるものではないので赤ちゃんの睡眠時にも見られます。目覚める直前に起きる「夜間陰茎勃起現象」の最後の一回が「早朝勃起(朝勃ち)」です。レム睡眠が長く、回数が多いほど、朝起きた時に「早朝勃起(朝勃ち)」している可能性は高くなります。「早朝勃起(朝勃ち)」は、自律神経による生理現象であり、睡眠サイクルが正常に行われている指標とも言えます。

夜間陰茎勃起現象(NPT)

8 ED(勃起障害/勃起不全)の診断と治療

  1. 問診にて次のことを確認します
    ✅主訴
    ✅身体的初見
    ✅病歴
    ✅勃起スケールの確認
    ✅発症してからの経過期間
  2. ED(勃起障害/勃起不全)の分類を確認します
  3. 治療方針、期間や行動療法をご提案します
    ●西洋医学・東洋医学に基づく症状の説明
    ●治療方針・期間の提案
    ●生活習慣改善の提案

9 ED(勃起障害/勃起不全)における鍼灸治療の4つの柱

1つ目の柱:自律神経の改善

西洋医学におけるED(勃起障害/勃起不全)の薬剤治療で使用されるPDF-5阻害薬(バイアグラ)などは、よく精力剤と混同されますが、骨盤神経の活動を補強するのが主作用であり、「勃起に至るまでの5つのステップ」で解説した➀副交感神経が優位になることと、②性的興奮や刺激があってはじめて治療効果を期待できるものです。ですので、この二つのステップを踏むためには、自律神経の改善が最重要といえます。
自律神経は、心身のバランスを正常に保つ働きを持ち、勃起や射精機能に深く関わっています。勃起と射精は性行為の中で行われるプロセスのため、両者のメカニズムは似ていると思われているかもしれませんが、「副交感神経」の影響により勃起し、「交感神経」が優位となり射精に至ります。つまり、勃起するためにはリラックスが必要とされ、射精するには適度な刺激と興奮が必要となります。日頃の生活で自律神経の乱れがあると、勃起と射精がうまく行えず、結果として、ED(勃起障害/勃起不全)や早漏、膣内射精障害などの性機能の悩みにつながっていきます。

鍼灸治療は、自律神経のスイッチである「皮膚」に刺激を与えることで交感神経と副交感神経の働きを調整し、自律神経のバランスを整えます。それにより、精神的なストレスを軽減しリラックス状態を促進します。

2つ目の柱:男性ホルモン(テストステロン)の改善

性機能に影響を与える男性ホルモンにテストステロンがあります。
テストステロンは、男性の生殖機能や筋肉量、骨密度、そして毛髪の成長など、男性の身体に大きく影響を与えています。約95%が睾丸の中で、残る 5%が副腎で合成されて分泌されます。そのテストステロンが脳にある特定の受容体に結合して作用することで、性欲が増加することが分かっています。テストステロンが何らかの原因で減少すると、勃起力が弱まり性的な欲求が起きなくなるなど、性機能が低下するといわれています。
分かりやすい指標としては早朝勃起(朝勃ち)があり、テストステロン値が夜間陰茎勃起現象(NPT)に与える影響ついて調査した文献では、テストステロン値が低い男性は夜間陰茎勃起現象(NPT)時の硬度が低く、持続時間も短いと報告されています。
またテストステロンの分泌は睡眠中に高まるため、睡眠障害はED(勃起障害/勃起不全)の原因になると考えられます。

いくつかの研究で鍼灸治療がホルモン調整に与える効果が示され、鍼灸の刺激がテストステロンの分泌を増加させる効果がみられると報告されています。

3つ目の柱:経絡の流れの改善

東洋医学では、身体には「経絡」という気や血、水分といった物質やエネルギーの流れる12本のラインがあると考えられています。経絡は五臓六腑といわれる内臓や、感情、筋肉などに繋がっています。
病気は、経絡を流れる気・血・水分の流れやエネルギーの過不足・乱れが精神に影響していると考えます。ED(勃起障害/勃起不全)に関して、乱れやすいと考えられる経絡は、「肝」や「腎」、「心」とされます。例えば、肝は、「怒り」の精神作用と関係があり、肝に問題が起きるとイライラする感情が起こります。また、肝は筋肉・血と関係があり生殖器を通っています。そのため、経絡の気血の流れが滞ると性機能の障害を引き起こします。

乱れている経絡に鍼灸治療を施し経絡の流れを調整します。その人の体質や環境などを考慮して治療を組み立てていくことが大切になります。

4つ目の柱:骨盤底筋の強化

骨盤底筋とは、内臓を支える骨盤の底部に付着した部分で、恥骨から尾骨の間にある筋肉や靭帯と皮下組織から構成されているハンモック状の筋肉群を指します。そして、骨盤底筋は勃起や射精に深く関係しています。勃起は、陰茎へ大量の血液が流入することによって起こります。この血流は、骨盤底筋の正常な機能によって調節されています。これらの筋肉が適切に働くことで、血液が陰茎の中にある海綿体に流れ込み、女性の膣への挿入に十分な硬さとなる必要な量の血液を保持することができます。
骨盤底筋が収縮すると、陰茎海綿体の根本が圧迫されて内圧が上昇により勃起が促進されます。この収縮は、勃起を維持するのに役立ちます。つまり骨盤底筋が衰えると勃起の維持が難しくなります。骨盤底筋を強化することで、血液が陰茎の内部に効果的に保持されるため、より強く長く勃起を維持できます。

鍼灸治療は、骨盤底筋の障害について有効であるという研究結果が報告されており、ED(勃起障害/勃起不全)対策に一定の改善効果があると報告されています。

10 ED(勃起障害/勃起不全)における鍼灸治療のメリット

鍼灸治療は、東洋医学と西洋医学の両方から支持され、科学的にも証明された効果的な治療法です。
自律神経を整え、ED(勃起障害/勃起不全)の原因となる交感神経と副交感神経のバランスを改善し、身体全身の調和を取り戻します。
鍼灸は、副作用がなく、安全に長期間利用できる治療法です。自然な方法で身体全身のバランスを整えるため、ED(勃起障害/勃起不全)や早漏など性機能障害に悩む方に最適な治療法といえます。薬の副作用が心配な方、薬に頼らずに根本的な治療がしたい方にぴったりの治療法です。

11 プライバシーへの配慮

当院の治療スペースは壁で仕切られた個室です。
デリケートなお話ですからプライバシーへの配慮は十分気を遣って行っています。
人間の身体はとても繊細で、心と密接に繋がっています。
同じ悩みを抱えた方が沢山お越しになります。恥ずかしがらずにお気軽にご相談ください。

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