機能性ディスペプシア

機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia:FD)とは、胃カメラや血液検査などで明らかな異常が認められないにもかかわらず、胃もたれ・早期満腹感・みぞおちの痛みや不快感といった症状が慢性的に続く状態を指します。

これらの症状は、「異常がない」「気のせい」「ストレスでしょう」と言われやすく、つらさを抱えたまま過ごしている方も少なくありません。

近年では、胃の運動機能・内臓知覚の過敏性・自律神経・心理社会的要因が、複雑に関与する疾患として、機能性ディスペプシアという疾患概念が確立されています。

機能性ディスペプシア(FD)とは?


検査では異常がない胃の不調を

医学と東洋医学の両面から解説

1 機能性ディスペプシアの定義

日本消化器病学会の診療ガイドライン(2014年版/2021年改訂版/2023年資料を踏まえて)では、機能性ディスペプシアを次のように定義しています。

機能性ディスペプシア(FD)の定義
症状の原因となる器質的、全身性、代謝性疾患がないのにもかかわらず、慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの、心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患

これは、胃潰瘍・胃がん・逆流性食道炎などの器質的疾患が検査で否定されているにもかかわらず、症状が続いている状態を指します。

2 主な症状

機能性ディスペプシアでは、次のような症状がみられます。

  • 食後の胃もたれ
  • 少量の食事でもすぐに満腹になる(早期飽満感)
  • みぞおちの痛み、不快感、違和感
  • 胃の張り、重さ
  • 吐き気、げっぷ
  • 食欲不振

症状の出方や強さには個人差があり、食事内容・ストレス・疲労・睡眠不足などをきっかけに悪化すこともあります。

3 機能性ディスペプシア診療ガイドライン

※2014 年版/2021年改訂版/2023年資料を踏まえて

2014 年に刊行された日本消化器病学会の診療ガイドラインでは、機能性ディスペプシア(FD)は心身相関の影響を強く受ける疾患として整理されました。

病態としては、単一の原因ではなく、次のような要因が複合的に関与するとされています。

  • 胃・十二指腸の運動機能異常(胃排出能異常、胃適応性弛緩の障害など)
  • 内臓知覚過敏
  • 胃酸分泌の影響
  • 心理社会的因子

この「多因子病態」という考え方は、その後のガイドラインでも一貫して踏襲されています。

2021 年の改訂版ガイドラインでは、2014年に整理された多因子病態の枠組みを踏襲したうえで、ストレスや不安などの心理社会的因子が、自律神経や消化管の運動・知覚を介して症状に影響する病態理解が、より整理されて示されています。

このような考え方は、胃や腸だけでなく、脳の働きやストレスとの関係を重視する「脳腸相関(脳と消化管が相互に影響し合うという考え方)」として理解されています。

4 ご自身が機能性ディスペプシアかどうかの目安(セルフチェックフローチャート)

※本フローチャートは診断を目的としたものではありません。

症状が強い場合や不安がある場合は、医療機関での検査を優先してください。

5 東洋医学的にみた機能性ディスペプシアの治療方針

東洋医学では、機能性ディスペプシアを「胃だけの問題」ではなく、全身のバランスの乱れが消化機能に現れている状態として捉えます。

現代医学においても、FDは単一の原因では説明しにくく、胃の運動機能、内臓知覚の過敏性、心理社会的因子などが複合的に関与する病態として整理されています。

当院では、こうした多因子性を前提に、次の4つの視点から状態を見立て、体質や生活背景に合わせて治療方針を組み立てていきます。

1.自律神経の調整 (緊張と「胃の反応性」を落ち着かせる)

機能性ディスペプシアでは、胃そのものに病変がなくても、胃の動き(運動)や、胃の感じ方(知覚)が過敏になり、「胃もたれ」「みぞおちの不快感」「吐き気」などの症状が出やすくなることがあります。

また、ストレスや不安といった心理的負荷が、自律神経を介して消化管症状に影響するという脳腸相関(脳と消化管が相互に影響し合うという考え方)も近年重視されています。

鍼灸では、身体に適切な刺激を入力することで、過緊張が続きやすい状態(交感神経優位)を和らげ、胃腸が本来のリズムを取り戻しやすい環境づくりを目指します。

当院では、特に次のような傾向が強い方ほど、自律神経の調整を治療の軸として組み立てます。

  • 胃の不調が、仕事・家庭・対人などの緊張場面で強くなる
  • 寝不足や疲労で、胃が動かなくなる/逆に過敏になる
  • 呼吸が浅い、首や肩のこわばり、冷えやのぼせを伴う

2.脾・胃の機能調整 (東洋医学的消化機能:受け取って運ぶ力を立て直す)

東洋医学では、消化吸収の中核を「脾(ひ)」と「胃(い)」が担うと考えます。
現代医学の視点で言い換えると、FDでしばしば問題となる胃の運動機能(胃排出能、胃適応性弛緩など)や、食後症状の出やすさに関わる領域です。

とくに「食後愁訴(食後のつらさ)」が中心の方では、

  • 食後の胃もたれ
  • 早期満腹感(少量でお腹がいっぱいになる)
  • 食欲不振

といった症状が目立ちやすく、東洋医学的には脾胃の働きが低下している状態として捉えます。

当院では、体質や生活背景(食事の時間・量・内容、冷え、睡眠、疲労の蓄積)を丁寧に確認しながら、脾胃を支える方針を立てていきます。

ここで重視しているのは、単に「胃を刺激する」のではなく、“受け取れる量・消化できる量”に体側を合わせていくという考え方です。

3.肝気の調整 (ストレスと「胃のつかえ」の連動をほどく)

機能性ディスペプシアは、心理社会的因子の関与も重要視されており、症状が生活背景と強く結びつく
ケースが少なくありません。

東洋医学では、この「ストレスと症状の連動」を、主に「肝(かん)」と「気(き)」の巡りで説明しま
す。

肝の緊張(肝気の滞り)が強い場合、次のような胃症状が出やすいと考えられています。

  • 緊張すると胃が痛くなる、差し込むように感じる
  • 気を遣う場面で胃が重くなる
  • げっぷ、張り、つかえ感が強い
  • 食べると余計に不快だが、空腹でも気持ち悪い

当院では、肝気の調整を「気」という抽象的な問題としても大切に捉えながら、同時に、呼吸の状態、胸郭の硬さ、首や肩の緊張、みぞおち周囲の反応といった身体所見としても丁寧に確認し、総合的に診察していきます。

気の巡りと身体の反応をあわせて整えることで、胃がストレスに「巻き込まれにくい状態」を作ること
を、一つの治療目標としています。

4.脳腸相関へのアプローチ (全身のつながりを前提に整える)

近年は、脳と腸が自律神経・内分泌・免疫などを介して相互に影響し合う脳腸相関の枠組みが注目されています。
また、腸内細菌や腸管バリア(粘液、タイトジャンクションなど)が、心理社会的ストレスの影響を受けうることも指摘されています。

FDそのものを「腸内細菌だけ」で説明することはできませんが、症状が⾧引く方ほど、

  • 睡眠の質が低下している
  • 不安や緊張が強い
  • 便通(下痢・便秘)や腹部膨満を伴う
  • 胃だけでなく、全身が過敏になっている

といった全体像を併せ持つことがあります。

当院では、鍼灸を「胃だけに当てる治療」ではなく、神経系・内分泌系・免疫系が互いに影響し合う全身の働きを、できるだけ安定させる体調づくりという視点で、全身の反応を丁寧にみながら施術を行っています。

6 機能性ディスペプシアの治療ポイント
- 再発しやすい疾患だからこそ鍼灸という選択肢

機能性ディスペプシア(FD)は、治療によって症状が改善する方が多い一方で、症状が落ち着いた後も再発をくり返すことのある疾患とされています。

日本消化器病学会が公開する「患者さんとご家族のための 機能性ディスペプシアガイド2023」には、治療後も数か月以内に約5人に1人が再発するとの報告があります。

またFDでは、

  • 過敏性腸症候群(IBS)
  • 胃食道逆流症(GERD)
  •  機能性便秘
  • 不安・抑うつなど心理的背景

といった症状や疾患が併存することが少なくありません。

これらのことから、FDは胃だけの問題ではなく、自律神経や身体全体の状態と関係しながら起こる疾患と捉えられています。

そして日本消化器病学会の機能性消化管疾患診療ガイドライン2021では、FDの治療において、鍼(はり)治療は有用であるとの報告があると明記されており、鍼灸は治療の補助的手段として選択肢に挙げられています。

当院では、FDの

  • 再発しやすい
  • 他の症状と併存しやすい
  • 心身と関連しやすい

といった特徴をふまえ、

  • 胃の症状
  • 自律神経のバランス
  • 体質や生活背景

を総合的にみながら施術方針を組み立てます。

症状がある時の症状緩和だけでなく、症状が再び出にくい状態をめざし、身体全体を整えていく治療を大切にしています。

「検査は問題ないのに不調が続く」「良くなってもまた戻る」「薬以外の方法も試したい」といったお悩みがある方は、ぜひご相談ください。

本ページの情報について

本ページは、日本消化器病学会「機能性ディスペプシア診療ガイドライン(2014年策定/2021年改訂)」および関連文献を参考にしつつ、鍼灸臨床の現場で得られた経験をもとに作成しています。
本ページの内容は、医学的診断や治療の代替を目的としたものではありません。
症状が強い場合や不安がある場合は、必ず医療機関での検査・診察を優先してください。

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